演技トレーナーが教える 俳優に柔軟性が必要な5つの理由


「俳優って日頃からまず何をすればいいのか?」と何だかよく分からずにいる人もいるのではないでしょうか。
とりあえず筋トレ、とりあえず人間観察、とりあえず発声と活舌の練習。そんなことを最初にイメージして答えてしまうかも知れません。まず最初にやっておくといいことをひとつ挙げるならば、それは柔軟です。
俳優に柔軟性は必要なのか?という問いに私ははっきりと答えます。

それは、Yes。

これまで1000人以上、演技ワークショップでプロアマ問わず見てきましたが、はっきり言って「素晴らしい演技をする俳優は身体が柔らかい」と言っても過言ではありません。というよりも、15年以上も演技トレーナーをしてきて、そのひとつの事実に突き当たっています。
そして、こうも言えるのです。

「身体が柔らかいと同時に、心も柔らかい」と。

ただし、身体が柔らかいからと言って、必ずしも心が柔らかいとは言えません。身体だけが柔らかい人がいるからです。また性格ももちろん加味する必要があるでしょう。しかし、次の条件を頭に付け加えるとはっきりします。「感情豊かな素晴らしい演技をする人は」身体が柔らかいと同時に、心も柔らかいと。

自分の身体の硬さ柔らかさを自覚していますか?

「俳優の柔軟性の大切さ」について、意外と本人が自覚していないことがあります。これはまだ20代で勝気だった頃の私にも当てはまりますが…。この大切さにもっと早く気が付けば良かった、とさえ思っているほどです。実は、40代の今の私の方が10代、20代の私より心も身体も正直柔らかいです。
それではなぜ、柔軟性が必要なのか簡単に紐解いてみます。

俳優に柔軟性が必要な5つの理由

なぜ、俳優に柔軟性が必要なのか?なぜなら

1.ケガをしないようにするため
2.ケガを相手にさせないため
3.監督や演出のリクエストに対応する身体が必要なため
4.起きた感情をそのまま声に乗せるため
5.相手の台詞や感情を受け取るようにするため

まず、私たちは、次のことを認識していく必要があります。声と身体とは密接な関係があり、その関係を理解して受け入れていくこと。それはつまり、声と身体を一緒に育てていくようにトレーニングをして行く必要があるということです。その両者を育てるうえで柔軟をすることがとても重要なのです。

「1.ケガをしないようにするため」、「2.ケガを相手にさせないため」について

これはもう一目瞭然ですよね。説明も不要かも知れません。柔軟性は自分がケガをしないためにも必要ですが、反射神経や運動能力としても相手にケガをさせないためにも柔軟性は必要です。硬い動きなってしまう人は相手をケガさせてしまうし、逆も然り。

3.監督や演出のリクエストに対応する身体が必要なため(身体を自由に効かすため)

これは、1と2にも当てはまる部分ですが、補足した内容になります。俳優は、立ち位置の指定に従ったり、場合によっては手の位置やある身体の一部分を使ってのみの演技を要求されることがあります。そのような場合、そのパーツを自然に、また自由に使えることが監督や演出のリクエストに応える大切な要素に違いありません。

4.起きた感情をそのまま声に乗せるため

素晴らしい俳優の条件として、「心に起きたことを、自然な感情で、自然な導線を通って、自然な音色で表現されることができる」、というのがあります。メソードアクティングを勉強したことがある方なら何度も耳にしているのではないでしょうか。極端に言ってしまえば、身体が硬いと錆びたロボットのような音になってしまいます。ぎこちない音(声)を出す俳優の喉や腰や足や背中の硬さは観ていて苦しく感じてしまいます。柔軟性を高め、喉を緩めるのも、身体をゆるめるのも、身体からバイブレーションして自然な音色(声)を出すためなのです。

5.相手の台詞や感情を受け取るようにするため

想像してみてください。あなたが、全身に力を入れて「絶対に倒れないぞ」という気持ちで立っていたら、誰が押してもびくともしないでしょう。あまりに強い力で押されたとしても、踏ん張って力を跳ね返そうとするのではないでしょうか。痛みすら跳ね返すように…。それは相手の力を受け取らない、ただ跳ね返すことに繋がります。つまり、相手を拒否していることに繋がっていて、相手のエネルギーを受け取っているわけではないのです。押されて、「痛い」というものを一度しっかりと受け取って身体をバイブレーションさせることが、心を揺らすことに繋がるのです。その後に押し返すのであれば、それは素晴らしい会話です。「受け取る」ということは押された分だけの波紋が身体に起こるようなイメージです。このように感じる力は俳優にとって必要十分条件に違いありません。

心が反映するのが声や身体である

先ほども記述しましたが、身体が柔らかいからと言って、必ずしも心が柔らかいとは言えません。しかし、身体が硬い人で、心の柔らかい演技をする俳優に出会ったことがないと言っても過言ではないのです。少なくとも私が出会ってきた中では、の話ですが・・・。

俳優の心の硬さって何?

さて、何度も記述しているこの「心の硬さ」って何のことでしょうか?
それは、言い換えると「心のガード」「壁」のことなのです。その「壁」は、小さなころより習慣化した緊張の塊が感情の流れを止めているとイメージしてもらえたらと思います。
例えば、道でついついつまずいてしまったらあなたはどう反応しますか?転びかけた心の動揺や、一瞬の感じた恐怖の反応が出てきてしまうと「弱い」「カッコ悪い」と思われるために心の動揺をひた隠して、しれーッと歩き去りませんか?それは、本来の心の動きとは全然違うのではないでしょうか?
俳優というお仕事は、たとえ気持ちを隠したとしても、本心が身体から、目からにじみ出るものに変えていく必要があるのです。そのように響く心体を持つ楽器となって舞台やカメラの前に立つ俳優こそ、名優に違いありません。そのような状態でいられる俳優は「心が柔らかい」のです。

「Yes,and…」の精神で挑むこと

「心の柔らかさ」というのは、また監督や演出のリクエストに対しても応えるうえでも必要です。
「Yes,but…」つまり「はい、でも…」といった対応は稽古やリハーサルの現場、はたまた本番の現場では非常にネガティブで不要な状態です。否定しているからです。多くの場合は自分の考えに固執してしまっているもの。俳優に必要なことは、まずはやってみること。つまり、心の柔らかい俳優は、監督や演出のリクエストを受け入れ、挑戦してみることができる俳優でもあるのです。それは、「Yes,and…」の精神で挑むことができる俳優であることに他なりません。

過去の自分の身体の硬さを振り返ってみると恥ずかしくもなります

恥ずかしい話ですが、今でこそこの柔軟性の大切さをといていますが、20代の頃の私は身体的にかなり硬かったのです。柔軟性が大切なことはわかってはいました。しかし、わかっていはいたけれど、実感していなかったというのが正しい表現になります。きっと私が、アクション俳優やダンサーなど運動に大きく関わる表現者であればしっかりと実感していたと思います。ところが、私のようなストリートな演技をする俳優にとっては「そうは言っても、そんなに柔軟性が大切?まずは気持ちでしょう」と、どこかで思っていたのです。
ここ重要です(笑)。
そうなんです「そんなに柔軟性が大切なのか?」と、そう思おうとしている時点で私の心が硬かったです。つまり、「Yes,but…」の思考をしていたということ。よく知りもしないで拒否をして受け入れていない姿は、我ながら、、、恥ずかしくなります。柔軟性は大切だよ、と当たり前ように誰もが言っていることですが、実際は柔軟なんて面倒くさいし、時間取られるし、とりあえずやらない理由を自分で見つけていたに過ぎません。

私が柔軟性の大切さに気がついたきっかけとは

柔軟性の大切さに気が付いたのは、20代も終わりに近づいたときでした。メソードアクティングのトレーニングとして、リラクゼーションの重要性に気が付かされたときのこと。その時に、自分の心と体が、いかに感情にブレーキをかけてきたかを知りました。つまり余分な力があちらこちらにあったのです。当然かも知れません。俳優や脚本家、演出家として全力疾走している最中でしたので、あらゆる場面で実は気を張っていたに違いありません。そして心体をほぐすリラクゼーションのトレーニングを始めました。すると、身体のトレーニングと思っていたはずのことが、心をほぐすトレーニングになっていったことを実感したのです。
そして、メソードアクティングをする俳優たちに出会ったことで、トレーニングをしてる人でもうまくいっていない人、実際に演技に生かせていない人、素晴らしく演技に生かせている人を見てきました。素晴らし演技者から多くを学び、それらを見てさらに心と身体の結びつきの大きさを目の当たりにしてきたのです。
私はこれまで多くの俳優をみてきましたが、身体の硬さが呼吸との連動の失敗に繋がっていることを発見しました。と同時に心体をほぐすことで、素晴らしい演技を導き出すことが可能であることももたくさん目の当たりにしてきたのです。演出としても、演技トレーナーとしても大きな発見でした。

反論(身体が硬くても演技がうまい人いるよ~)

こう思う方もいるかも知れません。
「身体の硬い人でも演技がうまい俳優って絶対にいるだろう?逆に、身体が柔らかい人でも演技がへたな俳優もいあるだろう?」
もちろん、います。
身体の硬い人でも演技がうまい俳優は、いわゆる演技がうまいのであって、自然な感情表現が生まれているわけではありません。言ってしまえば、技術でがんばっていらっしゃる方なのです。そうするとダイナミックな感情のうねりが生れにくいので、形に頼ってしまいます。また、BGMやカメラや編集技術でうまく誤魔化されています。技術型の演技は、それはそれでいいのかも知れませんが、自然な演技からは離れていくことを覚えておいてください。
身体が柔らくても、演技がへたな方。そのような方は、心と身体の回路がうまく繋がっていないということです。普段からストレッチや柔軟をする際に、ついつい呼吸をとめてしている方いませんか?ちょっと勢いをつけてする際に「ふん!」と息を止めている方はいませんか?無理な身体と呼吸の仕方では、ご自身の楽器がつぶれてしまいます。それで結局は形に頼った演技になってしまうのです。

あなたは自分が楽器であるということをご存知でしょうか?

まとめ

心と身体は密接な関係なのです。つまり心と身体は一緒に育てて行く必要があります。このことを俳優がまず自覚する必要があるのではないでしょうか。すでに自覚があれば努力しやすいのですが、その必要性を認識していないのならきっと努力はしないでしょう。柔軟性は、心が感じたことがそのまま連動する“音(声)“が発せらると身体にしていくためのトレーニングになるです。「柔軟性の大切さ」は、きっとわかっている方がほとんどだと思うのですが、改めて身体の硬い方はトライしなおすいいきっかけになれば幸いです。

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柔軟性は演技以外にも、日常から生きることに違いありません。

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About ひころーる

イラストレーター ひころーる 2011年に「めぐりのおと」の絵本を描いてから 個展を5回開催し、どれも好評を得て 調子に乗って、受注販売をしたり イラストレーターのお仕事をいただいたり 非常に恵まれてきた環境です。 美大も美術系専門学校もでていない私が イラストや絵を描き続けられる環境にあることに 感謝しながら、コロコロと状況を お伝えしていきたいと思います。 ※活動が多岐に渡って経験を備えてきました。 それぞれ専門のブログやウェブサイトがありますので、 こちらはイラストレーターに寄せたものにしていきます。