米映画「フロリダ・プロジェクト」と日本映画「万引き家族」から観る世界 part2


米映画「フロリダ・プロジェクト」と日本映画「万引き家族」から観る世界 part2
米映画「フロリダ・プロジェクト」と日本映画「万引き家族」から観る世界 part2

先に「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」の感想や演技について書きました(下記に記事をリンクしています)。そして、引き続き日本映画「万引き家族」と合わせて記述していきます。「万引き家族」は、もはや言わずと知れた、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞の是枝監督作品。実は私はあまりの評判に、ちょっと敬遠していましたが、遂に鑑賞しました。

「万引き家族」あらすじ

治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが……。
※シネマトゥデイ参照

「万引き家族」 感想

タイトルで思い込みをしっかりとミスリーディングしているところも凄い。ちなみに、脚本段階では「お父さん」「お母さん」と呼んで欲しい願望から「声に出して呼んで」というタイトルだったそうです。その場合はタイトルからのミスリードを出せず、若干のネタバレが起きていたはずですので作品のエンタメとしての印象が変わったはずですよね。
映画の感想を簡単に言いますと、前半1時間、家族の様子をパラパラと見せながら、途中「?」という違和感を残しつつ、残り1時間で一気に場が変貌していく流れ、見事でした。面白かったです。

「フロリダ・プロジェクト」が淡々と保障無き世界で何とか生き抜こうともがく親子たちをドキュメンタリー性で描いたのに対し、「万引き家族」はドラマ性とエンタテインメント性が高い作品となったと思います。その表現の違いが、両者にあって面白いです。

物語から見える 司法と行政の届かない場所

警察が結局、決めつけて話をする事。また加害者の言い分には決して寄り添う事はない事。警察が事件(結果)から推測して描いた物語が優先され、逮捕者は逃れられないという尋問を描いていました。それは事件への過程が重要視されない。
もちろん、殺人は許されるものではないですが、“誘拐”と“無届の保護”との違いには全く境がない。家庭内暴力については目を瞑っている状況。実母が優先される現実を大いに反映している。

垣間見れる、ワーキングプア、非正規雇用で働かざるを得ない人々のライフスタイル。時給が高い故にクビになるが、時給高いモノ同士話し合いでどちらかが辞めるのを決めさせる非情なバイト。それを言うのも恐らく雇われた上司(店長)かも知れない。どこかで聞いた事ありそうな話。非正規雇用の拡大、コロナ禍ではさらに非正規雇用切りが起きそうで怖い。

演技について ソーメンラブ

リリー・フランキーさんと安藤サクラさん、その関係性の自然な距離感と時に見せる緊張感がとても素晴らしい。夫婦シーンではソーメンのシーンのやり取りがかなり印象的です。即興部分がおおいにある演出だと思いますが、あのお互がスイッチをちょっとずつ押していくような対話。不器用なキス(笑)。全裸シーンは動ける範囲が固定されているのでぎこちないですが、それもフレッシュさが出てていいんです。

万引き家族 ソーメンラブ
万引き家族 ソーメンラブ

安藤サクラさんのラストの尋問のシーン

実は演技が絶賛されていたことを知らずに観て興奮しました。
特に安藤サクラさんのラストの尋問のシーンでの反応は素晴らしい。それまでの経験が詰まった居方(いかた)での尋問シーン。撮影秘話を見ると、尋問する警察役の池脇さんに次はこれを聞いて下さいと台詞を書いたホワイトボードを見せて聞いてもらい、安藤さんは何を聞かれるか全く知らない中で、対応していたそうです。(役として準備ある)俳優としてはありがたいこと。マーロン・ブランドが台詞を覚えないで自然に言うようにそうしたシーンがあると聞いたことがありますが、まさにそれですよね。
彼女の役、彼女の人としての核と、両方がバイブレーションして発せられた尋問の台詞は、かなり強烈で素晴らしいアクティングでした。

安藤サクラさん、万引き家族 尋問シーン
万引き家族 安藤サクラさんの尋問シーン
©Arito Art

演技についての個人的思索

是枝監督が安藤さんの尋問シーンについてのインタビューでこう言っていました。

「普通、女優であれば、大粒の涙を見せようといったわかりやすいお芝居になるんですが、あんな泣き方をする女優を僕は初めて見ました。身も蓋もないよね(苦笑)。」

この内容だけ見ると、正直そんな女優さんしかこれまで知らなかったの?残念過ぎるでしょう、女優や俳優の可能性を信じていなかったのか?という気持ちが芽生えてしまうんですが、よくよく考えたらこう言ってるのだと思います。

「演技しちゃってます、計算してます、という生きていない女優たちが日本ドラマや映画で散見されるんです、だから私はそうならない演出をしているのです。それ以上に期待を越えた演技を出してくれたのが安藤サクラさんなんです。」(※勝手にインナーモノローグしました(笑))

なぜなら、是枝さんの作品では、俳優が引き出された演技、与えられた状況下で考えずに生きている演技をされているからです。もしも、そのような自然な演技の経験のなかった俳優たちの一部は、他の監督のもとでは是枝監督作品の中での演技以上のものを表現し得ないこともあるかと思います。失礼を承知で記述しますが、例えばですが、園子温監督映画で演出された若手俳優たちも別の作品では「あれ?」というところがあるかも知れません。
そして、先ほどのインタビューの内容の続きですが、

「現場にいたみんなが『すごいものを見ちゃった』となりましたし、セカンドの助監督は『いまのシーンに立ち会えただけで、この作品に参加した意味がありました』と言って帰りました」

その演技を引き出した監督とスタッフ、そして彼らを信頼してその中で心体をオープンにして演じた安藤サクラさんとも凄いのです。形にはまらない演技、とはまさにこの事なのです。俳優だけの力ではないのです。是枝監督と肩を並べる事もないですが、私個人、メソードアクティングを訓練した俳優たちの演技で、まさにそのシーンに立ち会えた事や体験した時に「凄いことが起きた」とビリビリと感じたこと何度もあります。まだまだそれを追い求めている途中ですが、是枝監督作品からもそのエネルギーをもらえる事、心より感謝しております。

万引き家族、りんはラストに何をみた?
万引き家族、りんはラストに何をみた?

万引き家族のラスト、りんは何を観たのか? 映画の見方は自由(^^♪

ラストにりんは何を観たのか?ってこれ、何か話題になってたりするようですね。監督が決めていようと、観るモノにはいかようにも捉えていいのです。他にも祥太がどうして「わざと捕まった」とウソをついたのか?など。ちょっと話題になっていました。

正直そういうのを人に聞かずに自分で想えるから面白いんです、映画って。映画ならではの演出がたくさんあるわけで・・・。それを友人と話したり、映画好きな人と話すのが面白いんですよね。即興も多かった映画で、その後に小説に書かれていて、色んな変化があるし、小説にこう書いてるから映画はこう!ではなく、観た人が映画から受けって自由。正解を探す必要はなくて。
だから、人に正解を聞くのではなく、お互いの感想を述べあうのが面白い。解釈に余白がたくさんあるわけですが、個人的には祥太は嘘をついていないと思います。りんがラストに観たのは?・・・何でしょう。小説から知るのではなく、映画から解釈することをおススメします。

【公式】『万引き家族』本予告

「フロリダプロジェクト」のモーテル暮しは、日本で言うとネットカフェ難民です

日本でもコロナ禍、自粛営業で住む場所を失ったネットカフェ難民やホームレスの方にホテルを無料で5月末まで貸し出しをしたりと対処しました。しかし、その期限後には追い出してるのです。誰にも頼れなくなったときこそ、社会保障が手を差し伸べる、その為のみんなの税金集めたセーフティーネット(保険)であるはずなのに。税金は適切に使用され続けたのか?問いたいですね。仮住まいで生き続けるということは、ホームレスの状態なのです。
ステイホームするホームがない。生まれも育ちも誰もフェアじゃない。そして明日にでもあなたは全額失うかもしれない。誰も助けてくれないかも知れない。その為のセーフティネットを社会保障は作っているはずではなかったのでしょうか?

The motel living of “Florida Project” is a net cafe refugee in Japan

Even in Japan, we dealt with lending the hotel free of charge until the end of May to Internet cafe refugees and homeless people who have lost their place of residence due to coronation and self-restraint. But after that deadline, it’s kicked out. It is supposed to be a safety net (insurance) that collects everyone’s taxes for social security to reach out when no one can rely on it. Did the tax continue to be used properly? I want to ask you. Staying alive in temporary housing is homeless.
There is no home to stay home. Born and raised, no one is fair. And tomorrow you may lose the full amount. No one may help. Wasn’t Social Security supposed to have created a safety net for that?

部屋を借りるというハードル 日米

米国では家を借りるにはある程度の家具を買いそろえて保証金を支払う必要があり、過去にクレジットカードの支払いを延滞や支払い金額が不足している場合、いい保証人がいない限りなかなか部屋を貸してもらえないのが現状との事。しかも、日本と同じく都市部に仕事を求めて人はやってきます。すると都市部の家賃は高騰してしまうのです。非正規雇用で働く人たちや一度家を手放さざるをえなかった人達にとっては再度賃貸契約をするのは高いハードル。そこで安モーテルと言えど、保証人不要の賃貸で暮らす選択をせざるを得ない。アパートの家賃よりも月額が高くなったとしてもモーテルで何とか暮らそうとしてる人がいるという事。

日本も同じく、保証人や敷金礼金の問題がある。今でこそ、敷金礼金なし物件や保証人代行会社が存在しています。それはNPO法人や新宿派遣村で活動された方々などの力でワーキングプアが広く認められ、少しずつホームレスの方々の救済が行われ始めたからと思われます。保証人なしでも部屋を借りれる物件も増えてきましたが、それでもそこに入れない方々も存在するのも事実。
現実は、まだまだ見えなくされただけ。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年) によると、日本の「貧困率」は15・7%。国民の7人に1人が貧困状態です。
週7日働いても手取り15万円前後、ボーナスなし・・・の非正規雇用のワーキングプア率は高い。

モーテル暮しとネットカフェ難民
モーテル暮しとネットカフェ難民

The hurdle of renting a room to compare between Japan and the US

In the United States, renting a house requires you to buy a certain amount of furniture and pay a deposit, and if you have past due credit cards or insufficient payment amount, rent a room unless there is a good guarantor The current situation is that you cannot receive it.
Moreover, as in Japan, people come to work in urban areas. Then, the rent in the urban area will rise sharply. For those who work for non-regular employment and those who had to part with their houses once, it is a high hurdle to re-rent a lease.
Therefore, even though it is a cheap motel, there are people who are trying to live in a motel even if it is higher than the rent to live on rent with low income.

Similarly in Japan, there are problems with guarantors and deposit money. Nowadays, there are real estate without deposit and key guarantor agency. This is probably because working poor was widely recognized by the power of NPO corporations and those who were active in Shinjuku dispatched villages, and the relief of homeless people began to be provided little by little. The number of properties that can be rented without a guarantor has increased, but it is also true that there are people who cannot afford to go there.
The reality is still invisible. According to the National Lifestyle Survey by the Ministry of Health, Labor and Welfare (2016), Japan’s poverty rate is 15.7%. One in seven people is in poverty.
The working poor rate of non-regular employment is high, even if you work 7 days a week, the allowance is around 150,000 yen, no bonus.

まとめ

米映画「フロリダ・プロジェクト」と日本映画「万引き家族」から観る世界、と出して比較してみました。これらの作品から知って欲しい事や考えて欲しい事は、きっと監督や製作側にたくさんあるはずです。ほとんどの映画はそうだとは思うのですが、ヒットしたり映画賞を受賞してるからこそ、届く人が増えますよね。
映画好きの私としては、心満たされることも、心をえぐられることも、心傷つけられ痛めることも、いい映画体験で、お腹いっぱいになります。長い文章にお付き合い、ありがとうございました。

About ひころーる

イラストレーター ひころーる 2011年に「めぐりのおと」の絵本を描いてから 個展を5回開催し、どれも好評を得て 調子に乗って、受注販売をしたり イラストレーターのお仕事をいただいたり 非常に恵まれてきた環境です。 美大も美術系専門学校もでていない私が イラストや絵を描き続けられる環境にあることに 感謝しながら、コロコロと状況を お伝えしていきたいと思います。 ※活動が多岐に渡って経験を備えてきました。 それぞれ専門のブログやウェブサイトがありますので、 こちらはイラストレーターに寄せたものにしていきます。